β2GPIネオセルフ抗体と不育症の関連

血栓症や不育症を起こす自己免疫疾患として抗リン脂質抗体症候群(Anti-Phospholipid Syndrome, APS)があり、APSの症状の中でも特に不育症の分野で積極的な臨床データの取得が進み、病態との関連が解明されつつあります。

不育症患者は日本で推計140万人、新規患者数は年間4~6万人。半数以上の患者は原因不明であり、治療法の選択が難しいといわれています。
β2GPIネオセルフ抗体検査は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「成育疾患克服等総合研究事業―BIRTHDAY/女性の健康の包括的支援実用化研究事業―Wise」(研究開発代表者:神戸大 山田 秀人 教授)において、約4,000例の不育症患者の血液サンプルから本抗体を測定することによって、世界で初めて不育症とβ2GPIネオセルフ抗体の関係を明らかにするための臨床研究が行われ、不育症の重要な原因であることが示唆されました。(プレスリリース

不育症におけるネオセルフ抗体測定

国内5つの大学病院において同意取得のもと、不育症の女性227人についてβ2GPIネオセルフ抗体および甲状腺機能、染色体検査、抗リン脂質抗体などの検査をおこなったところ、β2GPIネオセルフ抗体は52人(23%)の患者で陽性となりました。

不育症におけるβ2GPIネオセルフ抗体陽性の頻度は、不育症の原因を調べるための検査で判明した子宮奇形や子宮筋腫などの子宮の病気、甲状腺機能の異常、カップルいずれかの染色体異常などの因子の頻度の中で最も高く、β2GPIネオセルフ抗体が不育症を起こす重要な原因になっている可能性が示されました。さらに、原因が分からない不育症女性は過半数の121人を占めましたが、そのうち24人(20%)でβ2GPIネオセルフ抗体のみが陽性でした。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/art.41410

また、抗リン脂質抗体検査が陰性となった女性のうち、β2GPIネオセルフ抗体が陽性となった人が多くいました。さらにβ2GPIネオセルフ抗体が陽性であった不育症の女性では、陰性であった不育症の女性と比べて不育症になりやすいとされるHLA-DR4という遺伝子の型を持っている人の頻度が高くなっていました。今まで、なぜ、HLA-DR4の遺伝子を持った人が不育症になりやすいのかは不明でしたが、その理由を解くカギとなることが期待されます。

不育症とβ2GPI/HLA-DR抗体検査陽性例との関係

β2GPIネオセルフ抗体検査は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「成育疾患克服等総合研究事業―BIRTHDAY/女性の健康の包括的支援実用化研究事業―Wise」(研究開発代表者:神戸大 山田 秀人 教授)において、不育症患者の血液サンプルについて本抗体を測定し、陽性となった患者に対して抗凝固療法を行う事で、世界で初めて不育症とβ2GPIネオセルフ抗体の関係を明らかにするための臨床研究が行われました(下図参照)。研究班では、陽性者に抗凝固療法を行うことで生児獲得率が改善する傾向を認めました。

出典:国立研究開発法人日本医療研究開発機構
(https://www.amed.go.jp/news/release_20200626-03.html)を加工して作成